ハルは、ナツに顔を向けて微笑んだ。そして、ガラスに背を向け、手すりに両肘を乗せてもたれかかるようにした。目線の先にはエレベーターのドアが見える。

「これで、あいつのことは忘れることにするわ? 言ったでしょ? ナツ。出会いなんてないって! 本当、私って、ロクな奴との出会いがないのよねえ」

ナツは、複雑な面持ちで、ハルの横顔を見ている。

「……」

ハルは、晴れやかな表情だ。

「私、間違ったことはしてないつもりよ? あんなところに馬をつなぐなんて、絶対にルール違反だもの。馬が暴れて、歩行者が怪我をしないとは、言い切れないわ? だから、黙ってられなかったのよ。でも、男の人って、皆、私のこういうところを疎ましがるのよねえ……」

「お姉ちゃん……」

「いいわ? もう、一生、独身だってかまわない。例え、空回りばかりしてるんだとしても、この性格を変えることなんて絶対に出来ないもの。正しいと信じてることは貫かなきゃ!」

そして、ハルは、ナツに顔を向けて、いたずらっぽくニヤリとした。

「だから、あなたにも、もっとビシバシ言うわよ?」

ナツも、そのハルの顔を見て、いたずらっぽく微笑み返した。

「でも、家事の全く出来ないお姉ちゃんが、私に言えることなんてあるの?」

ハルは、満面の笑みで拳を振り上げて見せた。

「何ですって!?」

「キャハ!!」

ナツは、嬉しそうに両手を頭に乗せて、ハルに背を向けて見せた。

すると、ナツの目線の先で、茂夫が北の方を黙って見ていた。

ナツは、真剣な顔になって、茂夫に近づいた。

「どうしたの? シゲじい。黙り込んで……」

「いや、北の方に随分、黒い雲が出とると思ってのお」

   

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