「何にでも興味は持った方がいいぞ。特に最高の能を作ろうと思ったら、凡ゆる物の、最高の水準を知っておるべきじゃ。
そうじゃ、奈良などに引っ込んでいないでそろそろ京に移り住んだらどうじゃ。丁度室町に新しい屋形を造る予定じゃ。お前の部屋を一つ用意してやるから、そこに住んでわしと勉強しないか。一緒に雅楽を聴いたり、公家の宴会に行ったり出来る。良いと思わないか」
「それは勿論、願ってもない幸せで御座いますが、管領殿が果たして何と仰せになるか……」
「管領が何と言おうと、決めるのはわしじゃ。構う事はない。それより庭に出よう。新しい屋形の計画を教えてやる」
二人は庭に出て、池の前に立った。
「この池は小さ過ぎて舟も浮かべられぬ。新しい屋形にはずっと大きな池を造ろうと思っておる。そして橘、梅、藤、沈丁花、有りと凡ゆる花の咲く木を植えて一年中花の香りを絶やさぬ様にするのじゃ。池の辺りには大きな舞台のある部屋を作るつもりじゃ」
義満がそう言い終えた時、二人は同時に目の前の池に目を落とした。折しも風がなく、澄んだ、鏡の様な水面に二人の姿が映っていた。
片や十八歳の征夷大将軍、片や十三歳の人気能役者。身分も姿も対照的であったが、太陽と月の如く、それぞれの輝きを放っていた。義満は自分達の姿に見惚れ、出来る限り世間に見せびらかしたいと思った。
一方世阿弥はいつ迄もこの仲が続く訳が無い、という冷めた思いを抱いていた。
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