「日野宣子様からのご縁談をご承諾なさったのは誠に喜ばしく存じます。業子様は名家である日野家の才色兼備のお嬢様、只、御年が二十四歳と、将軍殿より七歳も年上、本当におよろしいのですか」
「わしは愚かな若い娘は嫌いじゃ。賢い、大人の女性が好きなのじゃ。光源氏だって、最初の妻葵上(あおいのうえ)は四歳年上。本当に好きだった藤壺は五歳年上だったではないか」
細川頼之は、源氏物語が引き合いに出された事にはあまり感心しなかったが、愚かな若い女より賢い大人の女性が好きだという、如何にも将軍らしい言葉には満足した。後円融天皇への対抗意識で結婚を承諾したなどとは思わなかった。
義満が結婚して以来初めて、世阿弥は三条坊門第に呼ばれた。
「随分長い事会わなかったが、どうしておった」
「以前と変わらず稚児勤めに勉強、能の稽古に公演と、毎日忙しくしておりました。上様こそ、ご結婚されて如何お過ごしでいらっしゃいましたか」
「やっと子を宿した事が分かった所じゃ。来年にはわしも一児の父と成る。就いては出産に立ち会おうと思っているのじゃが、そちも参るか?」
「ご出産に立ち会う? と、とんでも御座いません!」
「そうか、面白いとは思わないか? 赤子が生まれる瞬間とはどんなものか、わしは前から見たいと思っていたのじゃが」
「全く、上様の好奇心には驚かされます。私は能の事にしか興味が御座いません」