なるほど、ここは彼が言っていたように、この丘の中でも一番最高の場所だ…そう思いながら、ユージンはトムが優しく親孝行の息子であることを改めて知った。
この穴を掘っていたトムの心には悲しさがいっぱいだったに違いない。にもかかわらず、この黄色い花の丘で悲しみを堪えながら彼は一人墓を掘っていたのだ…。辛い彼の気持ちを思うと、ユージンの目に涙が溢れた。
ジュピターは穴を見て、それが何のためなのかをすぐに察したようだ。そして、彼の横に座ると静かに構えた。タイガーとフレイジャーは黄色い花の香りを楽しんでいるかのように、尾っぽをふりながら地面に咲く花から花へと鼻をくっつけて嗅ぎまわっている。
「お兄ちゃん、ここがお墓になるの?」リチャードとラニーがその穴を見ながら尋ねた。
「そうだよ。これはトムが朝、ここにやって来て一人で掘ったものだ。ここでトムの父上と母上が永眠の眠りにつかれるのだよ」
二人は棺を入れるのに十分な深さと幅をもったその穴を無言で見つめた。トムが今日の朝掘り起こしたばかりの茶色い土が穴の周りに積まれていた。傍には畑で使用するクワが置いてある。
耳を澄ましていると、草原を吹き抜ける風の音が聞こえた。しばらくすると、丘のすぐ下のほうから「ユージン」と呼ぶ声が聞こえた。トムが丘に着いたらしい。
ユージンがその方角を見ると、流星に乗ったトムと別の馬二頭に村人が乗って丘を上がってきた。村人が乗ってきた馬は棺を載せた二台の木の車を引いていた。木の車は馬が前に進むとギイーギイーという音を立てた。
流星に乗っているトムの肩には、何やら重そうな袋が掛けられている。流星の首にも、もう一つ袋が掛けられ何かを運んできたようだ。
やがて、トムが、ユージン達の前に着き流星から降りると、無言のまましばらく穴の側で膝を立てて静かに祈りを捧げた。
それを見たユージン達もトムの後ろで同じように膝をついて祈りを捧げた。静かな丘の上の彼らの祈りに囁くように、遠くで囀(さえず)る小鳥達の声が風に乗ってかすかに耳に入ってきた。
静かな丘の上の彼らの祈りに囁くように、遠くで囀る小鳥達の声が風に乗ってかすかに耳に入ってきた。
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