赤ちゃんは、口に乳首を含んで舌と口蓋に押しつけて、頰をすぼめて口の中を陰圧にして母乳を飲みます。そして離乳後は食べたものを口の中で細かく噛み砕き、唾液と混ぜて粥状にする咀嚼を行いますが、この時食べたものを舌と頰っぺたで上手に歯の上に乗せていて、頰筋は収縮しています。
つまり、顔の筋肉(表情筋)は口を取り囲む壁をつくり、食べることに重要な役割を担い、本来生きていくためにとても大切な役割をしている筋肉なのです。
そのほかにも表情筋は口に入れたものをこぼさないようにしたり、風船を膨らませたりするときにも同じように働いています。また、言葉を発するときに口唇の形が様々に変化するのも、口の周りに多くの表情筋が付着しているからです。
私たちの体は細胞という単位から成り立っています。細胞は体の中で集まり一定の配列や形態をとる集団、すなわち組織をつくり、組織はその細胞と細胞がつくった細胞外マトリックスすなわち細胞間質によって構成されています。体の自由表面を覆う膜状の細胞の集団を上皮または上皮組織、上皮以外の組織を間葉と呼び、間葉は支持組織、広義の結合組織とほぼ同義です。
私たちの体は、上皮と間葉で構成されていると言えます。上皮の働きは場所によって様々ですが、基本的には体の表面を覆って保護することです。つまり、上皮組織の連続性が外界から体の内部環境を遮断しているのです。
ところが、口の中に露出している歯の表面は上皮の細胞間質であるエナメル質でかろうじて連続性が保たれていますが、体の中で唯一、上皮細胞の連続性が途絶えています(図6)。
歯の表面と歯周組織との境界部における上皮細胞の連続性の欠如は、体の弱点となり、歯周病の原因となっているのです。この境界部の歯ぐき(歯肉)は特に接合上皮と呼ばれ、口の中の常在菌すなわちパラサイトと体すなわちホストの防御細胞とが相互作用する生体防御最前線なのです。