「泊まっていきたいが、仕事が山積みでね。今日の最終便でアメリカに戻るよ」

「そうですか……。残念だな」

父が肩を落とす。

「沙代ちゃんがいなくても、ここが実家だと思って、いつでも来てちょうだい」

妹を亡くし、天涯孤独となった伯父を慰めるように、ふくちゃんは優しい笑みを浮かべた。

「ありがとうございます」

伯父は深々と頭を下げた。

「伯父さんも家族だね」

何気なく言った僕の言葉に伯父が頷き、初めて涙を見せた。すると、先ほどから父の上にいた母の魂は伯父の頭上に移動し、ハチの字を描くように動き出す。

母の優しい声で、「泣かないで、お兄ちゃん」と、聞こえた気がした。

年が明けた二〇〇二年一月、世の中はお正月のお祝いムード一色に沸き立っていたが、諏訪家は母のいない寂しさに覆われていた。

父は二階の和室にある仏壇から離れず、一日のほとんどを母の写真を見て過ごしている。

僕は外に出ることはなかったが、家のどこにいても母の魂が付いてくるので、悲しみも寂しさも半減したかのようだった。

ふくちゃんは、父と僕を心配してマンションを引き払い、同居を始めた。もともとは父と二人でこの家に住んでいたが、父の結婚を機に気ままな一人暮らしがしてみたいと言い、家から徒歩三分のマンションの部屋を借りた。

 

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