【前回の記事を読む】【ヴァージニア・ウルフ『波』翻訳】みんなの快活な冗談やうわべだけの表情が嫌いなの。
波
「赤紫色の光が」
ローダは言った「ミス・ランバートの指輪に宿り、祈祷書の白いページに付いた黒いしみの上を行ったり来たりしているわ。それは葡萄酒色の、なまめかしい光。もう寄宿舎で荷ほどきが済んだので、私たちは世界地図の下に集まって座っているの。机にはインク壺が付いているわ。
ここで課題をインクで書くのね。でもここでは私、誰でもないの。顔がないわ。ここには生徒がたくさんいて、みんな茶色いサージの制服を着ているから、私の個性は奪い取られたの。みんなよそよそしく、仲良くもない。だから顔を探し出すわ、落ち着いて堂々とした顔を。
そしてそれに無限の英知を与え、洋服の中に身につけてお守りにするの。それから(これは約束するけど)森の中に小さな渓谷を見つけるわ、そこでなら私がいろいろ集めた、珍しい宝物を並べられるの。これは自分自身に約束する。だから泣かない」
「あの浅黒い肌の女性は」
ジニーは言った「頬骨も高いけど、つやつやと輝くドレスを持っているわ、貝殻のような縞模様をした、夜会に着るための。それは夏に着ると素敵なの。でも冬になれば、私は赤い糸で彩られた薄地のドレスを着てみたくなると思うわ。それはきっと火明かりの中で燦めくでしょう。
そしてランプに灯がともれば、私は赤いドレスを着るの。それはヴェールのように薄く、私の体を包み込み、つま先(ピルエット)旋回しながら部屋に入っていくとふくらむわ。そして部屋のまん中に置いてある金色の椅子に深く腰を下ろせば、花が咲いたように広がるでしょう。
でもミス・ランバートはくすんだ色の洋服を着ているわ。それは純白の襟飾りから滝のように垂れ下がっているの。そして彼女はアレクサンドラ女王の肖像画の下に座り、白い指をページにしっかりと押し当てているわ。これから私たちお祈りをするの」
「二人ずつ並んで行進する」
ルイスは言った「整然と行列を組んで、礼拝堂に入っていく。神聖な建物に入った時に僕たちを包むほの暗さが好きだ。整然と進むのが好きだ。僕たちは列を作って入堂し、席に着く。入堂しながら、僕たちは自意識を脱いでいく。
さあ僕の好きな瞬間、ほんのはずみで少しよろめきながらクレイン先生が説教壇に上がり、真鍮の鷲(わし)で飾られた書見台に広げた聖書から日課を朗読する。歓喜に包まれ、僕の心は彼の巨体、彼の威厳に包まれ広がっていく。