【前回の記事を読む】初めての恋人をネタにした話を書いたら映画化!さらに続編を企画してもらえないかと嬉しいオファー
人生の切り売り
四 追憶
話はそこで終わるはずだった。が、藤島が予想外のところへ水を向ける。
「神野さんって、本当にナツメくんと付き合ってるの?」
「……どうしたんですか急に?」
「だって、今彼ならもう少しネタにするのも躊躇するでしょう」
編集者ではなく女の顔をした彼女が、じっとこちらを見つめる。
「最初は売れてる感じがないなと思ったのよね。稼ぎが増えて仕事を辞めて、つまりは自由にできるお金も時間も増えたはずなのに、どこに使っているのか見えなくて」
「執筆に専念してますよ、そのために仕事辞めたんだし、ずっと書いてるとお金の使い道もなくて」
「そこよ」「はい?」
「年下のイケメン彼氏がいたらいくらでも使い道はあるでしょう。見せる相手がいればお洒落だってしたくなるものだし、順調なら引っ越しも考える頃合いかな」
週四日勤務の派遣社員でも住めるワンルームは、確かにそろそろ引っ越してもいい気がしたがもう遅い。
「ナツメくんに全財産貢いでましたってことなら話は別だけど」
そうでもなさそうだと彼女は結論を告げた。
「あなた、恋してるオーラがない!」
「……今更すぎやしませんか」
私はナツメくんを、悪魔を恋人と偽ったことはないのだ。いつだって周りが勝手に勘違いしていた。
「あの子いったい何者なの?」
しかし改めて問われると困る。いったい何者と説明すればいいのか。
「正直に教えてあげたら? 僕は構わないよ」
「ナツメくん?」
いつの間にか、当の本人がそこにいる。
「一仕事終わって戻ってみれば、僕の話?」
「仕事って……?」
悪魔は満面の笑みを浮かべた。
「契約の清算」
それはつまり、過去に悪魔と契約した誰かが亡くなって、その人の魂を―。