「分かった!」

藤島が素っ頓狂な声を上げる。

「ナツメくん、さてはレンタル彼氏でしょ?」

「……この人は何を言ってるの?」

彼が首を傾げるのも無理はないが、彼女は自信満々だった。

「だから恋人にしては違和感があったし、素性も誤魔化してた。今の、契約の清算ってそういうことでしょ? 神野さんが売れたから、他の客は全部断って専属契約でお世話になろうって魂胆。どう?」

盛大に間違えている。

だが、反則みたいな正解に辿り着けるはずもない中で、頑張って辻褄を合わせてきたと言えるかもしれない。さすが編集者。

「ナツメくん、お金じゃ愛は買えないのよ。神野さんを見てごらんなさい。全然幸せそうに見えない」

「ちょっと! 私は書きたいものが書けて幸せですからね」

「仕事はね。プライベートは?」

そう詰められると、確かに恋とはしばらく縁がない。

「やっぱり彼氏じゃなかったんだ」

得意になった彼女は、更にとんでもないことを言い出した。

「ナツメくん、私とお付き合いしましょうよ」

「君と契約するの?」

「契約じゃなくて、お付き合いよ」

悪魔に向かってなんてことを。と、口を挟む余裕はなかった。悪魔は万事心得ている。

「もう少し様子を見させてもらおうかな。君のことはまだ深くは知らないし、彼女との契約もあるからね」

「分かった。必ず私を選ばせてみせるわ」

それがどういうことなのか、藤島希枝は全く分かっていない。