【前回の記事を読む】クラスの女の子の家に遊びに行ったところ、僕が可愛いと思っていた女の子も遊びに来ていて…。少年の胸を焦がした初恋の行方
第1編 野球との出会い
1回裏 大失態の初ホームラン
昭和の時代、都内のそんな限られたスペースでとにかく野球に憧れ、野球をやりたくて、少しの時間、少しのスペースでも、思いっきり野球をやりたかった。そして、工夫して野球を楽しむ方法を考えていた。
勉強の合間にいつもの縦長の空き地で、少人数の友達と野球をやっていた。そこでは、ゴロ以外のフライとかライナーの打球は、基本的にセンター方向にしか打たないと危険だ。他人様の家に打ち込んでしまうので。
僕はバッターボックスに立ち、ピッチャーの球を打ちにいく。その時、一瞬、振り遅れ気味にバットが出てしまって、その打球はやや右方向へ飛んで行く。真芯に当たった良い当たりではあった。本来なら右中間を破るような完璧な右方向への打球だ。
しかし、その瞬間、「やばい!」と思うと、「ガチャーン!」他人様の家の窓ガラスを直撃。ボールをすごいスピードで他人様の家に打ち込んでしまったのだ。こんな失敗は初めてだった。
「コラーッ! そんなところでバットを振るんじゃない!」と言って、その家の主人に怒鳴られる。半ベソをかきながら頭を下げてガミガミ怒られる。怖くて下げた頭を上げられない。
「早く『帰っていい』と言ってくれ」と思いつつ怒られ続ける。
「もういい。その代わり、今後、その空き地では、一切バットを使ってボールを打つんじゃないぞ!」と言われて解放される。僕は、友達と一目散にそこを立ち去り、家まで走り続けた。
母に、「空き地の横の家にボールを打ち込んで、窓ガラスを割って怒られた」と話した。
「あらー、何やっているの。危ないからバットを振り回してボールを打っちゃダメじゃない」
「バットでボールを思い切り打つから野球は面白い。なのに、それができないなんて、東京の都心に住んでいると面白くない。何で、思いっきり野球を楽しめる所がないんだ」僕は、狭苦しく、家ばかりある都心の環境を恨んだ。
そばで聞いていた姉に、「ジョニー、今回の失敗はちゃんと反省しないとダメよ」と、笑顔なく言われた。
「わかった……」姉に言われると何も反論できない。僕にとって姉という存在が両親とは別の大きな柱になっていた。姉に対して畏敬の念を抱いていた僕は、どんな時も姉の言葉だけにはわだかまりなく素直に従うことができた。