その後、母に連れ出され、スーパーで僕ら姉兄弟は買ってもらったこともないような高級なイチゴを母は買い、僕が窓ガラスを割ってしまった家に謝罪に行った。家の主人は、先程、僕に浴びせた怒り声とは少し違って、やや抑えがちな声で、「もう割れてしまったものは仕方ないです」と言った。

母は先程買ったイチゴを差し出し、更にバッグから封筒を出して「お弁償代です」と言って渡した。

僕は母と歩いて家に帰った。母に「もう、あの空き地で野球やっちゃダメよ! わかった?」と言われた。

「わかった。ごめんなさい」と言う。

しかし、あの空き地で野球をできないと他にやる所はない。「僕はどうすればいいのか? 今後、どうやって楽しく野球をやっていけばいいのか? 野球ができないと生きる喜びがなくなってしまう」と悩んだ。そして、「もっとうまく打てばいいのだ。とにかくセンター返し」と考えていた。

それから一週間が過ぎ、僕は壁にボールをぶつけてゴロを捕る練習に励んだ。しかし、野球は、やっぱり思いっきり打たないとつまらない。素振りはするが、実際にボールを打たないと気持ち良くない。

   

二週間も経つと、窓ガラスに打ち込んだことは頭の片隅に追いやって、僕は仲間を誘って、あの空き地で野球を始めた。センター返しを意識して、打撃技術を上げようと思った。

「もう、絶対にあの家には打ち込まない」と心に誓っていた。ただ、誓いだけで打つ方向をコントロールできるものでもないのだが。

空き地で野球をしていると、たまに、僕が窓ガラスに打ち込んだ家の主人が顔を出して、「コラーッ! ここでバットを使っちゃダメだ!」と言って注意してくる。それを見ると、僕らはすぐに野球をやめて走って逃げた。

「畜生! せっかくノーアウト一塁二塁のチャンスだったのに邪魔してきて!」と、僕は自分が粗相をしたことなどすっかりと脇へ追いやり、野球をやらせないようにする大人を鬱陶(うっとう)しく思った。

  

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