涙を流しながら訴える様子を見て、私は悲しくなってしまった。私はつくづく、自分をバカだと思った。でも、どうしても彼を手放したくない。

また一人の、何か月も誰も訪ねてこない、彼と会えない日常に戻りたくないという気持ちが強かった。彼を好ましいと思うよりも、今では情が移って彼はいつの間にか、息子以上の存在になっていた。

あとから考えれば、私の言動は逆効果だったのだ。

次の来訪から、彼の要求が変わった。私が頼む家の用事はやってくれるのだが、必ず帰り際に金を無心するようになった。

最初は、どうしても月の売り上げが足りないと言った。

「今月、あと二十万あれば、僕ノルマクリアなんですよ。あと二十万がどうしても、足りないんです。奥さん、なんでもしますから、お金貸してくれませんか?」

私は内心とても困ったことになったと思った。

その頃にはすっかり彼を信用していたので、家の中のほとんどのことを彼に頼んでいた。彼に留守番を頼んで、買い物や病院通いまでしていた。

本当に彼を信用し切っていた。いや違う、少なくとも私の感情は、異性に対する気持ちになっていたのだ。

別れは突然やってきた。

ある朝、警察官が二人、家に来て坂本曜が逮捕されたという。捜査に協力してほしいと言われた。

    

次回更新は3月17日(月)、22時の予定です。

【イチオシ記事】何故、妹の夫に体を許してしまったのだろう。もう誰のことも好きになれないはずの私は、ただあなたとの日々を想って…

【注目記事】娘の葬儀代は1円も払わない、と宣言する元夫。それに加え、娘が生前に一生懸命貯めた命のお金を相続させろと言ってきて...

【人気記事】銀行員の夫は給料五十万円のうち生活費を八万円しか渡してくれずついに…