Cランクはわずかしかない、すこし傷みがあるような苺だが、これもセレブの団体が買い取り福祉施設に寄贈される。つまり、天空のストロベリーファームで摘み取られた苺は市場には出回らず、一般市民が口にすることはほぼなかった。

自動運転のシャトルバスで街に向かう。むせるような濃厚な大気。智子は一瞬ノスタルジーを覚えたが、すぐに醒めた。大気には匂いがあり、真冬なのに生暖かい雨が街を濡らし、陰鬱に濡れたアスファルトは異臭を発している。上空6000メートルでは雨はなく、大気は純粋だ。智子から見ると、孝太は郷愁を味わっているように見えた。

居酒屋のエントランスで全員が集合した。智子はしまったと思った。皆それなりに着飾り、髪をセットし、化粧をしている。自分はジーンズにスニーカー、ロングシャツにジャケット。すっぴんだ。口紅すら引いていない。

着陸作業で忙しく気づかなかったといえばそれまでだが、飛行船での生活では化粧など忘れていた。でも誰もそのことには触れなかった。

ビアホール風のレトロな居酒屋はほぼ満席で、智子は喧騒に辟易(へきえき)したが、孝太は明らかに楽しそうだった。割り勘での飲み会だったが、孝太と智子は主賓扱いだった。久しぶりの再会を楽しむ飲み会となった。

「乾杯!」

「やっぱ1杯目はビールだね」

アルコールが苦手なミナだけは、トロピカルソーダを注文していた。枝豆と少し黄色味がかったポテトサラダが大皿で運ばれてきた。ミナが小皿に取り分けみんなに配る。

「私はポテサラは、いい」

「どうして? 智子さん、ポテサラ嫌いだったっけ」

「うん」

智子は嘘をついた。ポテトサラダが嫌いではない。和えているマヨネーズに不審があったからだ。妙に黄色味がかって不自然だった。