【前回の記事を読む】宇宙船で二人だけの空間を避け、離れたがっているのだろうか? せわしなく地上へ戻りたがる彼の寝顔に感じる恐怖。

第1話 天空の苺

空港のロビーにつながる最後のエアロックが開くと同時に、閑散とした広大なラウンジに大きな声が響いた。

「よっ孝太、ひさしぶり、智子さんも元気すか」

孝太の高校の同級生だったタケシが出迎えに来てくれていた。タケシは顔から元気を発散している。

「ケンタは?」

智子が聞いた。タケシの息子のケンタはまだ8歳、亡くなった親友の明美の忘れ形見だ。ケンタは重度の喘息持ちだった。

タケシはケンタを将来、飛行船ファームで働かせたいと真剣に思っていた。上空は空気が清浄だからだ。孝太も智子もそれを知っている。

「おう、ケンタの体調はまあまあって言いたいところだけど、本当はさ、ちょっと悪くて。今は、長野の爺ちゃんのところにいる。あっちは涼しいんで、夏休みも行かせてたんだ。爺ちゃんになついてるし、あっちのほうがまだ空気が綺麗だから楽みたいで、また行かせた」

「じゃ、会えないの」

「うん、でも今日はガーッと飲もうぜ、居酒屋予約しておいた、ユウとミナとレイナ、カエデも呼んであるから、あとヨシキとサキも後から合流すっからさ」

「じゃこれ、みんなの分」

智子と孝太は手引きカートの取っ手をタケシと持ち替えた。カートには紙箱が8つ積まれていた。

「なんだよ? これ、えー、まさか」

「摘みたての苺」

「いいのかよ、すごい」

「ケンタに食べさせられなくて残念だけどね、みんなの分持ってきたから食べて」

天空のストロベリーファームで摘み取られた苺はABCにランク分けされて出荷される。

Aランクの苺は信じられないような高値で即予約完売する。そのすべてが、地上で暮らすセレブ向けだ。彼らは安全で美味しい食べ物に支払うコストはいとわない。

単に形が悪いだけのようなBランク品も、味は変わらないので、企業が買い取ってノベルティやインセンティブとして使われる。