【前回の記事を読む】玄関が開く音がした…お父さんだ。「やだ!」必死に反抗したけど、怒鳴られて車の中に放られた。とても怖くて、声を殺して泣いた
すずさんへの余命宣告
びっくりするほど外は寒くて涙はすぐに止まったけど代わりにいっぱい鼻水が出た。
ゆっくりと地面に降ろされて手をつないで歩き始める。遠くからクリスマスの歌が聞こえてくる。僕の好きな「あわてんぼうのサンタクロース」だ。
「今日はクリスマスだね」
お兄ちゃんが優しい声で教えてくれる。
「サンタさんくる?」
「どうかな。何が欲しい?」
「おかあさんにあいたい」
「……それは無理かな。君とお姉ちゃんはね……」
お兄ちゃんが僕の手を離してしゃがみ込んで悲しそうな顔で僕を見る。続きを言おうとしたその時僕の身体が浮き上がった。
「洋ちゃん」
冷たい手とあったかい匂いが僕を包み込む。すぐに誰か分かった。
「おかーさん」
何回も何回も謝りながら力強く僕を抱きしめてくれる。僕も何回も何回も謝りながらお母さんを抱きしめた。ジーパンおじさんがお兄ちゃんと話している。その近くにはおじさんの工場で働いている怖そうなお兄さんが腕組みをして立っている。
「おい、行くぞ」
とジーパンおじさんが怖い声でお母さんに言って僕は近くに停めてあった車に乗せられた。
そこからは大人になってから聞いた話。
僕らが連れ出された後すぐに邦夫おじさんが部屋に来て異変を感じた。翌日には父を職場から尾行してマンションの場所を割り出してくれた。しおちゃんのこともありずずさんが来るのには少し時間はかかったがその間もマンションの前で工場の社員達と代わる代わる見張っていてくれた。マンションに乗り込んだずずさん達は珠ちゃんを連れ出した。