「遅れてごめん、のどが渇いただろ? よかったら、これ飲んで」

差し出されたのは紙コップ、のどがカラカラだったので、思わず一気に飲み干してしまった。

まだ春先だったので、冷たくないのも気にならなかった。お腹が空いていたのに、彼とたわいもない話をするうちに、あたしの記憶はなくなった。

目が覚めたのは、古びた木造住宅の四畳半ほどの小部屋だった。

猛烈な頭の痛みと吐き気。やっと正気に戻って部屋を見回すと、あたしのほかに二人の若い女性がいた。二人とも後ろ手に縛られている。

あたしはまだ眠っていたから無事なのか。どちらにせよ騙されたのだ。ここはあたしが来たかった場所ではない。

徐々に鮮明になってくる頭で、やっと自分が捕まったのだと理解した。

築五十年近いと想像する、とてもボロい家、とにかくここから逃げ出さなくては。

尿意を催したので、トイレに行こうと思った。それに家の中が、どうなっているのかも、見たかった。音を立てないように、そうっと立ち上がる。

引き戸を開けたところで、男に見つかった。

色の黒い大柄な男、このとき初めて彼の全身を見た。

「なんだ、お目覚めかい?」

彼の目は笑っていなかった。

 

次回更新は3月11日(火)、22時の予定です。

 

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