瑠璃は真一をマジマジと見つめ、「あら、こんなおしゃれなセンス、どこで覚えたの?」とやっかみ半分で眺めた。

「瑠璃、冷やかすもんじゃない。午後の講義が終わって教室で留守電を聞いていたら、学生たちが寄ってきたので、母のお見舞いに果物をもって高岡セントラル病院に行きたいんだけど、あの近くに果物屋さんない?と、うっかり漏らしてしまった。

すると、ある女子学生が、『本当にお母さんですか? 先生、高岡駅の降りた道沿いに、フルーツパーラーがあるので、そこで買って行かれると喜ばれますよ』とアドバイスしてくれたんだ」と真一は種を明かした。

すると瑠璃は嫉妬深く、「まあ、良かったですね。私林檎二個買ってきてください、と留守電入れただけなのに、こんなことになるなんて思ってもみなかったわ」とむくれた。

そんな二人を見ていた文子は、「あなた方、いい加減にしなさい。瑠璃ったら良い歳してみっともないわよ。折角だからいただきましょう」と割って入った。

三人はお隣さんに気遣って、小声で笑いながら美味しそうに食べた。あっという間に、真一が持参したフルーツはなくなってしまった。

「そろそろ、お義母さんの夕食の時間じゃないのか。瑠璃」

「六時が夕食の時間だから、もうすぐ配膳されるはずよ」と瑠璃が応えているうちに夕食が運ばれてきた。

 

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