【前回の記事を読む】「死んだのではなくて、殺されたのよ。」ずっと気にかけていたことを尋ねると、母は激しい怒りと共に、雄弁に語った......
第二章 善人面した悪人
「戦争は、悪の中でも〝極悪非道〟の行為であって、空襲はその最たるもの。だから私はそのことを訴え、語り継ぐことによって、平和な世界を個人個人、一人ひとりが自身のことと捉え、平和な世界の実現・継続できる社会を築くことの大切さを共有したいと思ってきた。
理想論と言われるかも知れないけれど、戦争は一旦始まると歯止めが利かなくなって、結局多くの人たちの命や生活が奪われ、日常が非日常となってしまう。もうそろそろ、この大きな過ちを繰り返すことの愚かさに気づかないと、『人が人でなくなる』と私は真剣に考えている。無関心が一番いけないの。瑠璃、間違っている!?」
「お母さん、間違っていない。そういう母親の娘であること、私は誇りに思っている。そろそろ病室に戻りましょう。大分時間が経ったわ。多分真一さんが待っていると思うから……」と瑠璃は母に声をかけた。
「そうね、待たせちゃ申し訳ないわね」と文子は言って二人は長椅子を立ち病室に向かった。
二人は、八階の廊下を歩きナースステーションに目をやると、そこに看護師たちと話をしている真一がいた。
瑠璃は早足で真一のそばに駆け寄り、「あなた、待たせてごめんね」と謝った。驚いた真一は、「瑠璃か……。お義母さんは」と尋ねた。「真一さん、ごめんなさいね」と文子は後から追いついてきて謝った。
真一は怪訝そうに、「瑠璃から聞いていた病室に入ってベッドを覗いたら、お義母さんや瑠璃がいなくて、ここのナースステーションで看護師さんにお聞きしていたとこなんだ。ところで、どこに行っていたんだ?」と質した。