瑠璃は何もなかったかのように、「お母さんと一緒に屋上で話していたら、長くなってしまって……」とその場を取り繕った。
「留守電に録音されていた林檎、買ってきたよ」
「ありがとう。真一さんお忙しいのに、お使いさせるなんて、瑠璃ったら」と文子は笑った。
その様子を見た真一は、「お義母さん、お元気そうなので安心しました」と口にした。瑠璃が、「折角真一さんが買ってきていただいた林檎、みんなで食べましょう」と言ったところ、真一が大きな買い物袋からフルーツの詰め合わせを出し、「これ皆さんで、召しあがってください」と言って看護師に渡した。
「ありがとうございます。わあ、美味しそう」
「義母がお世話になります。ほんの口汚しにと思い買ってきましたので」と真一は言った。
そんな様子を見ていた瑠璃は真一の耳元で、「あなたって、誰にでも優しいのね」と言って腕をつねった。
「さあ、病室に行きましょう」
瑠璃は真一と母の腕をつかみ病室に向かった。
ナースステーションで見ていた看護師たちは、「一之瀬さんのご家族って、本当に仲が良くて羨ましいわね」と口々に語り合った。
病室に入った三人は、ベッドの横にある窓際のテーブルに身体を寄せ合うようにしてパイプ椅子に座った。
真一が買い物バッグの中から取り出したのは、フルーツが既に食べやすいようにカッティングされ、奇麗に盛り付けられた籠だった。取っ手の部分には、リボンがついており、まるでアフタヌーンティーを楽しむように誂(あつら)えられていた。