須佐之男命は、奇稲田姫に

「汝は常に私とともにいるのだ」

と述べて、爪櫛 (つまくし)に変えてしまい自分の髪に挿されたのである。

爺と婆に、八回醸成を繰り返した濃い酒を作るように命じた。さらに家の周りに大きな垣をめぐらして、八つの門を作っておく。それぞれに座敷を作って酒船(酒を入れる船のような桶)を用意して、その中に濃い酒をたっぷり入れておき、八岐大蛇が来るのを待つように命じた。

準備がしっかり整った後、大きな轟音と雨嵐を伴って八岐大蛇は爺が話したように凄い形相でやってきた。

大蛇は八つの門まで暴れ狂ったように来たが、門においてある酒船をみると、それぞれ八つの頭を垂れ入れて、濃い酒をぐいぐいと一斉に飲みだしたのである。すべて飲み終わると大蛇は酔っぱらってしまい、その場に倒れて寝てしまった。

この時須佐之男命は、ここぞとばかりに持っていた十拳(トツカ)の剣を手にして八岐大蛇の上に飛び乗り、大蛇の頚が一つになった急所を突き刺した。驚いて暴れだそうとする大蛇にとどめを刺して、ずたずたに切り裂いた。その体からは続々と血があふれ出し、斐伊川は真っ赤に染まったという。

命(みこと)が大蛇の尾を切った時、持っていた十拳の剣の刃が毀(か)けていた。これを怪しんだ尊はよく調べてみると、大蛇の尾の中から光輝く素晴らしい太刀が出てきたのである。

これは天叢雲剣 (あめのむらくものつるぎ)といわれる神剣で、その名の由来は八岐大蛇の居るところには常に雲がかかっていることからという。

須佐之男命はこの太刀を捧げ持ち、

「なんと神々しくて美しい太刀であろうか。これは私ごときが持つようなものではない」と言われた。そして姉の天照大御神に奉ったといわれる。

この太刀が大王家に伝わる第三番目の神宝「天叢雲剣」である。