第1章:糖尿病の病態・疫学
9. インスリンの作用
A: インスリンは血糖値を下げる良いホルモンだと思っていましたが、肥満ホルモンとなると良い作用ばかりではなさそうですね……。
M: インスリンには、血液中のブドウ糖を中性脂肪に変えて脂肪細胞の中に詰め込む作用があるんです。「糖質を食べ過ぎると太る」って聞いたことがあると思いますが、太る理由はインスリンが糖を脂肪に変えてしまうためなのです。
A: 最近は糖質制限ダイエットが流行っていますが、糖質を減らすと痩せるのはインスリンが関係しているんですね?
M: 糖質を減らす→インスリン分泌が減る→糖が脂肪に変わりにくい、という流れです。
A: なるほど! メカニズム、よく分かりました。
M: また、血圧を上げる作用もあります。これはインスリンが腎臓からナトリウム(塩)の再吸収を促す作用を持っているためです。ナトリウムには体に水を引き込む性質があることから、体液量が増えて血圧が上がってしまいます。
A: インスリンが血圧に影響を及ぼすなんて意外です!
M: その他、インスリンには細胞増殖を促す作用があります。肥満の人はがんになりやすいということが知られていますが、肥満の人ではインスリンが過剰に分泌されているため、インスリン過剰→細胞増殖過剰→がん発生、というメカニズムでがんの発症リスクが上がります。
A: がん発症リスクが上がるんですね! ということは、インスリン注射をしている患者さんは、がんになりやすいということになりそうですが……。
M: とても鋭い心配ですが、インスリン注射では、がんの発症リスクは上がらないことが証明されています。
A: リスクが上がるのであれば、私だったらインスリン注射は絶対したくないな~と思ったところでした。安心しました。
10. インスリンは肥満ホルモン
M: インスリンは肥満ホルモンであることを示す、私の患者さんの症例をお見せしたいと思います。この方は外来でインスリンをしていました。しかし、過去にも何度か治療中断歴がある常習犯で、またもやある日突然、外来に来なくなってしまいました。
A: インスリンを中断してしまうと、大変なことになりそうな気がしますが……。
M: そのとおり、大変なことになります! この患者さんは9か月後に、全身倦怠感、体重減少、喉の渇き、トイレが近いという典型的な高血糖の症状で外来受診されました。中断前と比べて体重が14kg減少し、血糖値も500mg/dl台になっていました(図6)。
A: 14kgも痩せたんですか! 本当に大変なことになっていますね!!
M: 治療中断の常習犯なので、本人も「体重が減ってきたから血糖値が悪いと思っていた」と話されていました。
A: 思いのほか軽い発言です(笑)。