「それで、そのほうの働きもあり、長束正家のところから戻ってきた甲賀衆なのだが、家康様から山岡道阿弥様に、甲賀衆をできるだけ多く引き連れて伏見城に入城せよとの仰せがあった。道阿弥様は正家の下を逃れてきた者も含めて甲賀衆を集められることになろう」
「えっ……」
太一は複雑な思いがした。伏見城の周りの城はほとんど敵方であり、孤立無援の城である。甲賀衆が加わってもおそらく二千に満たないであろう。それに対して、敵方はおそらく数万の軍勢で伏見城を囲むことになろう。ということは、全員が討ち死にということになる可能性が高い。太一の気持ちを察したのか、善実坊はすかさず慰めみたいなことを言った。
「甲賀衆には忍びの技がある。万事休するときは脱出もできよう」
「……わしらは入城せずともよろしいのでござりますか?」「おぬしたちは引き続き諜報の任に当たってもらわねばならぬ」
「はい。して、十蔵はまだ京に?」
「いや、あれには佐和山城に行ってもらった」
「佐和山でござりますか」
太一は、佐和山には侍女として蓮実の局が入っているが、十蔵が行くということは、蓮実との繋ぎではなく、城に潜入して三成の動向を直接探るのが目的だろうと思った。
「次の指示があるまで初音とともにしばらくここに留まっていよ」
「はっ」
(初音もまだここにいたのか)
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