「栗林智久さんでしょうか。お話をお伺いしたくお時間いただけますでしょうか。年末のお忙しい中、申し訳ありません。手短に済ませますので」
落ち着いた雰囲気と大人の余裕を全身から醸し出す栗林は小さく頷くと、外のベンチへと案内した。木製のベンチに腰をかけるなり栗林が口を開いた。
「警察が私なんかになんのご用でしょうか」
「単刀直入に申し上げます。この方を覚えていらっしゃいますか。久原真波さんです。十三年前にこの紫藤美術大学を卒業されています。水彩画を専攻されていました。現在は藤中学校で非常勤の教員として勤務している方なのですが」
そういって久原真波の写真を見せた。栗林は老眼なのか、かけていた分厚い眼鏡を外して目を細めた。何かを回顧したかのように強面な顔が和らいだ。
「ああ、覚えているよ」
「そうですか、相当な卒業生の数だと思うので心配だったのですが。この久原真波さんが三ヶ月前から行方不明とされているのはご存じでしたでしょうか」
「ええ、ニュースか新聞で知りました。最近は聞かなかったのですが心配していました。久原さんが見つかったのですか」
栗林は手に取った写真を見つめながら訊いた。
「まだ捜査中ですのでお答えできません。久原真波さんはどのような学生でしたか。栗林さんにとって特別な学生ではなかったでしょうか」