暢気な苦笑が聞こえる。

「最初からそんなにつけたら、ほら、もうほとんど残ってないじゃない」国生の皿のタルタルソースは、あと三割ほどしか残っていない。

「もう、誰に似たんだか……」母は自分のタルタルソースを、半分ほど国生の皿に移した。

「ほら、何か言うことがあるんじゃない?」

「お母さん、ありがとう!」

満面の笑みで答えると、米粒が口から勢いよく飛び出した。

「いい返事だけど、お行儀悪い。食べてるときは喋らない」

「うん、わかった!」

また米粒が宙を舞った。たちまち母の目が吊り上がる。

「『うん』はダメ! 喋るのはあと! それとよく見たらあんた、また箸の持ち方が変じゃない?」

未だに箸の持ち方が治らないのは、これまで母が厳しく言わなかったからだ。夕食時は欠かさず晩酌をしていたし、そのときの母はぼんやりとしていて機嫌がいい。そんな状態で放たれる小言は、どこか気の抜けたサイダーのようで、ぴりっとしたところがなく変に甘ったるい。

しかし、それもひと月ほど前までの話だ。ここのところ母は一切晩酌をしない。そればかりか、ことあるごとに小言を言うようになった。内心鬱陶しく思いながらも、アパートの狭い部屋に母子二人。逃げ場はないので、逐一素直に頷くしかない。

その日も母は、食事をしながら何度もしつこく問いかけてきた。学校での出来事、授業の内容、クラスメイトや教師との会話……。これらも小言と同様、ひと月前から始まった日課だ。しかもたちが悪いことに、素行が気に食わないと必ず難癖をつけてくる。

「ちょっと待って。その隣の席の子って、どのくらい立たされてたの?」

「五分くらい」

母は眉根を寄せて、不満そうに口を尖らせている。

「国ちゃんは、答えがわかってたの?」

大きく頷き返す。当然、褒められると思っていた。だが母は、一層目つきを険しくしている。

「どうして助けてあげなかったの」

意外な指摘に、ぽかんとするしかなかった。

「授業に一所懸命だった先生の気持ちもわかるけど、五分はちょっと長すぎない? 立っていれば答えが出るわけでもないし、逆に緊張して出るものも出なくなっちゃう」

要領を得ないまま、何となく頷いてみせる。それでも母の饒舌は止まらない。