命運
「猛之進……おぬし、それほどまでにそれがしを疎むのは何故だ」
「……」
「どうした。わけを言え」
「おぬしと反りが合わぬは昔からだが、正直なところ自分でもよくは分からぬ。おぬしの方もそうしたものであろう」
「ふむ……瑞江をおぬしに嫁がせる話がでたとき、父御や母御はともかくそれがしは不承知であった。それはおぬしのその生まれついての曲がった性根だ。何れは瑞江にとって災いとなるに違いないと思っておった」
「何を申すか……おぬしにそれがしの品性を言えたことか。お笑い種だ。地金の悪さはお互い様ではないか」
「こやつ、何を言うか……今更ながら……それがし悔やんでおる」
「冥途の土産に聞かせてやろうではないか。おぬしは知らぬであろうが、弥十郎。鳳鳴流小太刀が破れたのは、それがし以前に瑞江と立ち合ったことが役に立ったのよ」
弥十郎は腹に刺さった脇差を最後の力を振り絞って引き抜くと、悪鬼の形相になり猛之進の言葉が終わらないうちに走り寄ってきた。すれ違いざまに二人の剣が閃くと弥十郎の持っていた脇差が音を立てて地面に落ちた。
猛之進の振り下ろした刀身が、弥十郎の腕を握っていた剣もろとも断ち斬ったのである。弥十郎はそのまま地面に突っ伏すと二度三度と口から夥しい血を吐き動かなくなった。