海智の病室の椅子の上で金清は右足を左膝の上に組み、右膝の上に右肘をつき、さらに右手の上に顎を乗せて渋い顔で考え込んでいた。海智が一夏から聞いた話を全て金清に説明したところだった。

「それじゃ、君と昨夜の看護師と中村大聖ら三人と看護助手は、その信永梨杏って子の同級生ってことか。まるで同窓会だな」

「医療事故っていうことで片付けられているようですが、昨夜一夏が言っていた通り、直前の巡回で人工呼吸器に全く問題はなかったわけです。もし万が一呼吸回路が外れたとしても人工呼吸器はすぐ低圧アラームが鳴って、ナースステーションにいても気付くそうです。

それが、昨夜はセントラルモニターのアラームが鳴るまで低圧アラームは全く鳴らなかった。通常はそんなことはありえないそうです」

「昨夜は確か、人工呼吸器の電源が切れていたと言っていたよな。誰かが電源コードを抜いたのか」

「ところが、人工呼吸器というのは必ずバッテリーが内臓されているので、電源コードを抜いたくらいでは電源はオフにならないんです。一夏に確認したんですが、人工呼吸器を止めようとするとすぐアラームが鳴ってしまうので、素人には難しいそうです。アラームを鳴らさずに止めるためには、なんでもまず一旦スタンバイモードにしてから電源オフにしないといけないらしいです」

「それじゃ、アラームを鳴らさずに呼吸回路を外せるのは医療従事者のみってことか」

「ただ、取扱説明書はネットでも検索できるので、事前に学習しておけば素人でもできるかもしれません。あと、普段から人工呼吸器に慣れている患者や家族も」

「君達は本当にその信永梨杏が中村大聖の人工呼吸器を止めたと思っているのかね?」

「いえ、今朝、彼女に面会したんですが、とても無理そうです」

「じゃあ、誰かが彼女に成りすまして中村大聖を殺害したと?」