「ここにいる」と断固として動こうとはしなかった。何かに怯えているようにもうかがえるが、鳥谷も渋々とした表情で少女に言葉をかける。

「ところで、雫ちゃんは何時からここにいるのかな」

「十分くらい前から」

「ということは九時十五分からということか」

鳥谷は肩を濡らしながら、時計に目を落とした。

「おじさん、ここで何があったのですか?」

「ああ、君には少し刺激が強いが。この場所に人が倒れているという連絡があってね。僕たちはずっとその人を探していたのだが、その人かどうかを確かめに来た。なあ、通報をしてくれた人がこの辺りにいたと思うのだが見ていないかい? ほんの十五分前くらいのことだと思うのだけど」

鳥谷は大きく周りを見渡したがそのような人物は見当たらなかった。

「私がおじさんに、電話しました」

少女は俯きながら声を出した。

「雫ちゃんが? 悪いけど携帯を見せてくれるかな」

少女はポケットからストラップのついた赤い携帯を取り出した。一般的に子どもが持たされている機種ではない。

そこには午前九時に鳥谷の個人携帯へと発信した履歴がある。時間も間違いないことは確認できた。

次回更新は2月10日(月)、21時の予定です。

 

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