少女は首を横に振ると鳥谷のことを指差した。

「どうせ家には誰もいないから。おじさんも友達を探しているの?」

「友達ってわけじゃない。おじさんは電話があってここに来た。もうすぐ相棒もやって来るから、そうすれば車で送って行ける。もう少しここで待っていてもらえるかな」

そう言うと羽織っていた撥水性のあるコートを少女へとかけた。長身の鳥谷のコートは少女にはとても大きく感じられ、裾は水溜りに浸かっていた。少女は凍えるように体を震わせるとコートの端を掴んだ。

「友達が心配です。全部私のせいです」

何か思い当たるように、少女は鳥谷を見つめた。ただ事ではないことを悟った鳥谷は少女の肩にそっと手を置いた。

「私は静岡県警の鳥谷元也という者だ。友達? ここに誰かいるのかな?」

「私を気にかけてくれるの?」

「当然だ。俺にも君と似たような雰囲気の弟がいてね。少し世話が焼けるが、根はいい奴で」と鳥谷はにこりと笑ってエクボを出した。

鳥谷と少女はビニール傘で強烈な雨を凌ぐようにその場に少しの間立っていた。木々は揺れ、足元はあっという間に水たまりで溢れている。

大通りにも車は走っておらず山奥で周囲に人の気配はない。薄暗く不気味なほどに自然の音だけが鼓膜を揺らした。

「気がかりだ。ここから歩いて数分のところに、今は使われていない古い蔵がある。そこに避難をしよう。おじさんはその友達の安否が心配だ」