第2章 夏休みの自由研究

1 カメラアイの文子

「急で悪いけど、これからうちに来ない? 打ち合わせをしたいから。外の自転車置き場で待ってる」

波奈は二人の返事を待たずに、さっさと図書館の出口に向かった。あわてて文子も波奈を追いかけた。

波奈が興奮をおさえきれずに言った。

「ああ、緊張した!」

文子もホッとしたようだ。

「どうなるかと思ったわ。でも、うまくいったわね」

まもなく研一と悟が、自転車置き場に現れた。悟が言った。

「先に行けよ。オレたち、少し離れてついて行くから」

「わかった。ついてきてね」

波奈が玄関のドアを開けると、三人ともほとんど同時に声を出した。

「こんにちは。おじゃまします」

「今、だれもいないの。おとうさんもおかあさんもまだ仕事よ。けっこう忙しいみたい」

波奈は三人を自分の部屋に案内した。小さな丸いテーブルがあり、小さなイスもある。部屋の棚には、波奈のおじいちゃんが作った発明品が並んでいる。悟と研一は興味深そうに、しばらく部屋の中を見回していた。

みんなが座ると、悟が波奈と文子を見た。

「グループ研究、おもしろそうだからいっしょにやるけど、二つだけ条件があるんだ」

「なに?」波奈がたずねると、

「学校では、オレたちに話しかけないこと」

悟の言葉に波奈がポカンとすると、研一が言った。

「照れくさいんだ。みんなの前で女子と話すなんて。男子のヤッカミも気をつけなきゃいけないし」

「わかったわ」と、波奈が答えると、文子もいっしょにうなずいた。

「もう一つは?」

「それは、自由研究が終わってから話す」

文子もしかたないという顔をしたので、「わかったわ。いいわよ」と、言った。

打ち合わせを始めると、話は早かった。研一と悟のカンはよかった。文子に読まされた本と研究のテーマから、自分たちの役割を、もう理解していたようだ。悟が言った。

「オレがヒスイのことを調べて、研ちゃんが古事記を調べればいいんだろ」

波奈は驚き、感心して文子と顔を見合わせた。打ち合わせは、またたくまにすんだ。

最後に確認したことは、夏休み中の『八』のつく日の午後二時に、波奈の家に集まること。それまでに調べたことを、報告しあうこと。次回は七月二十八日。確認が終わると、研一と悟はすぐに帰った。

波奈があきれたように、口を開いた。

「驚いたわね。あのヘンな二人、優秀なんだね、知らなかったわ」

文子もうなずいた。