第2章 夏休みの自由研究
1 カメラアイの文子
図書館に行くと、同じクラスの男子二人をよく見かける。いつも二人でいる。話したことはないが、名前は知っている。宮川研一(みやかわけんいち)と西森悟(にしもりさとる)。
研一は歴史、悟は科学の本が並ぶ棚(たな)から本を抜(ぬ)いて立ち読みしている。
二人は図書館で静かにしている。それはあたりまえ。ところが教室でも、二人だけで静かに話している。
クラスのらんぼう者やそのとりまきたちも、二人にはかまわない。ほっておかれている。変な二人なのだ。
そういう文子も、話しかけてくるのは、波奈だけだ。ほかの人のことは言えない。静かに本を読んでいる。と、ほかの人は思っているようだ。
でも頭の中は、物語でいっぱい。ワクワク、ドキドキ。泣いたり、笑ったりしているのだ。
この前、自分の部屋にこもって本を読んでいたらおかあさんが、あきらめたような表情で、
「文ちゃんて、おかあさんのおばあちゃんに、似たのかもね。語(かた)り部(べ)だったから」
「語(かた)り部(べ)って?」
「昔の話を語って聞かせる人よ」
波奈は家に帰ると、玄関(げんかん)の鍵(かぎ)をカバンから出した。いつものことだ。おかあさんは小学校の先生。日曜日でさえ、クラブ活動のお仕事なのだ。
ふつうの小学校のクラブ活動なら、休みの日には活動もお休みなのに、おかあさんの勤めている小学校の吹奏楽(すいそうがく)クラブだけ、休みの日でも練習があるのだ。熱心な活動が地域にも知られ、地域の行事にも招待されて演奏している。保護者も熱心で、おかあさんを休ませてくれない。
おとうさんも同じ市内の小学校の先生で、美術クラブを担当している。おとうさんは休みの日は休みなのだが、一人で美術館めぐり。それも朝早くから夕方遅(おそ)くまで。
波奈は、自分が一人ほっておかれているように感じる。でも、近くに住んでいるおじいちゃんとおばあちゃんが、いろいろなところに連れて行ってくれるので、さびしくはない。
約束どおり二時少し前、文子が波奈の家を訪れた。波奈の部屋に入ると、バッグから一冊の本を取り出した。
コブナ図書館のシールが貼(は)ってあった。本の間に、しおりがはさまれていた。
「これ、松本清張(まつもとせいちょう)の『万葉翡翠(まんようひすい)』という短編なの。ここから少し読んでみて」文子は本を開いて、テーブルの上に置いた。
難しい漢字や、古い文字が並んでいた。古事記(こじき)、沼河比売(ぬなかわひめ)、勾玉(まがたま)、翡翠(ひすい)などの言葉が並んでいた。
本から目を離(はな)した波奈は、少し考えこんでしまった。文子が心配そうにして、波奈の顔をのぞきこんだ。
「どうしたの?」
「うーん。ちょっと、いや、かなり難しそう。私には無理かな? でもやっぱり、調べてみたいな」
文子が窓の外を見ながら言った。
「思いついたことがあるんだけど」
「なに?」