「グループ研究にしたらどう? 担任の青山(あおやま)みどり先生も、自由研究はグループでもいいって言ってたし」
「うん、いいね。でも、だれかいる?」
「コブナ図書館で同じクラスの男子をよく見かけるの。話したことはないけど、いつも二人で来てるのよ」
「だれ?」
「宮川研一くんと西森悟くん」
「知ってるわ。いつも二人でいて、あんまりほかの人たちと遊ばない子ね」
「研一くんはね、歴史が好きみたい。悟くんはね、理科が好きみたい」
「文ちゃん、どうしてそんなこと知ってるの?」
「図書館で、二人がよく見ている本棚(ほんだな)を見れば、だいたいわかるわよ」
「なるほどね? でも驚(おどろ)き!」
「ヒスイは悟くん、古事記(こじき)は研一くん、波奈ちゃんと私は、二人でヌナカワヒメの伝説を調べればいいんじゃない」
文子はすました顔で言った。波奈は文子の顔をまじまじと見つめた。
翌日、二人でコブナ図書館に行った。
「二人ともいたわよ。あそこ」
文子が声をひそめて、言った。
研一と悟は、学習コーナーで並んで、本を読んでいた。波奈は音をたてないように近づき、二人の後ろに立った。文子が軽く指先でつつくのを、背中に感じた。
悟がふり向いた。声は出さなかったが、驚(おどろ)いたようだ。ようやく聞きとれるくらいの声を出した。
「なんだよ!」
研一も気づいたのか、無言でふり向いた。メガネを少し持ち上げ、めいわくそうな顔をした。
文子が何も言わずにサッと、研一と悟の間に松本清張(まつもとせいちょう)の本を開いたまま置いた。文子の動きがあまりに素早(すばや)かったので、つられて二人とも、読みはじめた。
図書館の中でおしゃべりをしている人は、だれもいない。波奈はノートにメモした。
「夏休みの自由研究を、四人でいっしょにやらない? テーマは『ヒスイとヌナカワヒメの伝説』」
波奈は、研一と悟が本から顔を上げるまで待った。悟が右手でページをめくっていた。
二人がほとんど同時に顔を上げたので、波奈は本の上に開いたノートを重ねた。二人は無言でメモを読むと、顔を見合わせた。悟がエンピツで、波奈のメモのとなりに、「いいよ」と、書いた。
二人は話しあったわけではない。よほど気持ちが通じあうようだ。波奈はひどく感心しながら、急いでノートに書きたした。
【前回の記事を読む】カメラアイの文子 父は都内へ勤務するサラリーマン、母は専業主婦。変わってるのは自分だけ。
【イチオシ記事】「リンパへの転移が見つかりました」手術後三カ月で再発。五年生存率は十パーセント。涙を抑えることができなかった…