「それにしても、本当に奇麗」

青く揺らめくダイヤを指の間に挟んで、頭上の電灯を透かし見る。

こうしていると海底に沈んだみたいだ。暗く冷たく、だがどこまでも澄んだ静かな美しい水底。田所のダイヤを「深海のダイヤ」と名づけて、小箱の蓋をそっと閉めた。

次はどんなダイヤがいいだろう。新たな犠牲者の候補に思いを馳せながら、雪子は冷たいシーツに潜り込んで、そっと目を閉じた。

田所のダイヤを受け取った雪子は、母の家を訪れた。誰かにダイヤを見せたかったのだ。知り合いから借りたと偽り、母にダイヤを見せる。

「ねぇ、奇麗でしょ?」

「はいはい、きれいね。なによ、その顏」

気のない様子で言いつつ羨ましさを隠しきれていなかった母が、ふいに顔を顰める。

「別に」

「思えば、あんたは昔からそうだった。ニヤニヤ笑って」

うんざりした声で言う母に、「ニコニコ」と、雪子は言い直した。

「ニコニコしてて優しそうって、みんなに言われる」

間抜けに口を開けた母に、そう補足する。

「バカじゃないの。あぁ、気持ち悪い。あんたってホント、なに考えてるか分からないわ」

              

【前回記事を読む】あの若い警察官、あの人の息子だったのか。私に人の殺し方を教えた、犯罪者のお手本みたいなあの人の…。笑っちゃう。楽しい。

次回更新は2月8日(土)、22時の予定です。

   

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