「だって、伸親さんと一緒に晩ご飯食べるの、久しぶりなんだもん」

雪子は甘く蕩(とろ)けるような笑みを浮かべた。

   

三週間後、田所の遺骨を使ったダイヤが届いた。雪子は仕事帰りにコンビニで受け取ってきた小さな段ボールの包みを、カッターを探すのももどかしく手で破った。

さて、どんな色の宝石になったのか。

震える手で紺のベルベットの箱を開ける。外装と同じ紺のクッションに埋もれるように鎮座する小さな粒を、人差し指と親指に挟んでかざし見る。

「きれい。海みたい」

ダイヤになった田所は、海底のような青色をしていた。きっと、永年積もった孤独の色だ。太陽さえ届かない深海と同じ藍。耳を当てれば、波にも似た嘆きの声が聞こえてくるようだった。

この小さな宝石が、同僚たちを恐怖とストレスのどん底に落とした迷惑者の生まれ変わりだなんて、誰が考えるだろう。発注した雪子ですら、あの醜くやかましい老人がこの美しく静かな輝石に生まれ変わったなんて信じられない。

雪子は鑑定書を何度も確認した。そこには、五月(いつき)犀(さい)という名前が確かに刻まれていた。雪子が「うるさい」をもじってつけた名前だ。

ゴミのような人間を美しい宝石に変えるなんて、奇跡のような技術だ。この美しさの前では、六十万円という設定金額すらも安く思える。

欲しいと思ったら、なにをしてでも手に入れる。最初は螺鈿(らでん)の小箱だった。

              

【前回記事を読む】「子供はまだか」…? 手のかかる異分子は当面、必要ない。夫も義父母も、どうしてそんなに子供を欲しがるのだろう。

次回更新は2月7日(金)、22時の予定です。

   

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