見てみたい気もしたが、もちろん口にはしない。今の生活は満足のいくものだ。壊すつもりはない。

問題は、やけに前のめりらしい優真がこの先どう動くかだ。

雪子は雛川優真の名前で密かに住民票を検索していた。閲覧ログが残るリスクがあったが、調べずにいられなかったのだ。

二十三歳、雪子より三つ下、現在は交番近くのボロアパートに住んでいるようだ。県外から越してきているが、本籍は飛熊市。元々はこの近くで生まれた可能性がある。

早速、戸籍の端末を叩く。養父母の欄に名前が載っている。つまり養子だ。もらわれたのは小学四年生の時。雪子はどきどきしながら実父の欄を確認した。如月優一郎(きさらぎゆういちろう)の名前がそこにはあった。

「やっぱり」

思わず笑い出しそうになる。

まさか犯罪者のお手本みたいな優一郎の子供が警察官になっているなんて、こんな傑作なことがあるだろうか。気弱そうな表情は似ても似つかないが、あの黒い瞳とぐいぐい迫るようなしゃべり方には面影がある。

「あの幽霊みたいな子がねぇ」

興味がなくてすっかり忘れていたが、優一郎には確かに息子がいた。いつもひっそりと息を潜めて部屋の隅で膝を抱えているような子だった。何度か一緒に遊んだこともある。

まさか優一郎の息子が警察官としてこの街に戻ってくるなんて、考えもしなかった。

面倒なことになりそうだと思いつつも、初めて優一郎に会ったあの時みたいに、退屈な世界が変わるかもしれないと期待してしまう。優真は優一郎みたいなおもしろい男に育ったのだろうか。押し隠した猜疑心とともに自分や明美を見つめていた黒い瞳は、深淵を覗き込んだような優一郎の瞳にそっくりに見えた。

背筋を甘い怖気(おぞけ)が走り抜けていく。

楽しいと雪子は思った。もしかすると楽しくないことになる可能性もあるが、その時はその時だ。吉凶は蓋を開けてみるまで分からない。だからこそ、蓋は開ける価値がある。

たとえ凶でも吉に運んでみせる。そのための努力は惜しまない。楽しくない人生など生きても仕方がないのだから。

「どうしたの、雪ちゃん、やけに楽しそうにして」