何を言っているのか分からず、僕の頭は混乱する。父は僕の手をとり、ゆっくりと話し始めた。

「人の体は心臓が止まると動かなくなる。それが死ぬということなんだ。でも、体の中には心の働きをしている魂があるんだ。魂は人を愛する気持ちを持った心で、体から離れても永遠に生き続ける」

「じゃあ、お母さんは生きてるの?」

「体はなくなっても心は生きてる。ほら、見てごらん」

父は僕の頭の上で静止した小さな彩雲を指さした。僕は天井にいる母の魂を見つめた。

「お母さん」と呼んでみる。

母の魂は答えるかのように、ゆっくりと時計回りに動きだした。

「沙代子、光の声が届いていたら俺のほうに来てくれ」

父が呼ぶと、またゆっくりと父のほうへ流れ始める。薄暗い部屋の中で母の魂は、まばゆいばかりの光を放ち、僕と父を見下ろしていた。先ほどまでの悲しみが嘘のように消え去り、やすらぎに満ちたぬくもりが伝わってくる。

「死んだらみんな、彩雲みたいになるの?」

僕が聞くと、父は頷いた。

「皆それぞれ形や色合いは違うけど、こんなふうに大切な人のそばにいて見守っているんだ」と、母の魂を見つめた。

「じゃあ、みんな淋しくないね」

僕が笑みを浮かべると、父は首を捻る。

「他の人には見えないんだ」

「どうして?」

僕も首を捻った。頭の中が、どうして? なんで? でいっぱいになる。

「どうしてなのかは分からないけど、光が生まれる前に天国に行ったおじいちゃんが教えてくれたんだ」

「おじいちゃんが? なんで?」

父が祖父のことを口にしたのは初めてだった。