第二章 晴美と壁

6

「お母さん、なんとか司会はできたけれど、とても疲れたわ。昼食は何も食べられなかったけど、いまはとてもお腹が空いたわ。何か、食べる物、なぁい?」

家に帰るや否や、晴美は母親に言った。

「饂飩の残りがあるので食べる?」

「うん、ほしいわ」

食卓に饂飩が置かれた。大好物の冷し饂飩なので、とても晴美のお腹を満足させた。

「あぁ、美味しかった。何だか緊張感もすっかりとれてきたみたい」

晴美はやっと安堵した。普段の晴美の活発さが戻ってきた。

「よかったわ。母さんも安心したよ」

夕食の折、父親は晴美に訊いた。

「晴美、司会は上手くできたのかい」

「できたけど、すごく疲れたの。終わったあと、食欲をなくしてしまったわ」

「そうか。でもいい経験をしたな。父さんはな。晴美が少しずつ前進していることに、逞しさを覚えるんだよ。この調子でやれよ」

「ありがとう、お父さん」