第二章 晴美と壁
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この数日、何の進展もない日々を晴美は過ごしている。デイケアでは晴美の人気はますます鰻上りになっている。
午前中の話し合いでは、若白髪に代わって司会を任せられた。が、晴美は引き受けたものの(何事も経験だと思って)、その緊張感は他者には分からない。
〈自分は務まる。務まる〉と暗示をかけた。
初めての経験だから、当たり前だ。最初から上手くできる者はいない。失敗してこそ、それが成功へとつながっていくのだ――。
「母さん、今度のデイケアの話し合いは私が司会するの」
「えっ、晴ちゃんが司会するの。まぁ、すごい」
母親は吃驚して目を細め晴美の顔を見た。娘が徐々に成長していくのを頼もしいと思っている。
母親と話しているうちに、少しずつ緊張がほぐれてきた。
〈そうなんだ。私はすごいんだ〉と母親の言葉を反芻した。
空回りしそうな己の心を〈私はすごいことをするんだ〉といい聞かせて、努めて冷静さを失うまいと晴美は必死であった。
当日が来た。晴美はどうにでもなれ!という幾分投げ遣りな気持ちを抱いていた。とにかく、やってみないと分からない。とにかく、やるのだ。
「今日のテーマは『親孝行について』です」
薄化粧がそう言った。白雪は正面の黒板に白いチョークで「親孝行について」と書いた。