この晴美の発言で部屋の中に一筋の光が射してきたようになった。若白髪が挙手をした。異例なことだ。

「晴美さんの意見に僕も賛成です。僕たちが精神病になったのは宿命なのだから。そう思えば、それなりに親孝行ができると思います。僕は自分なりに五十代の母親の肩をよく叩いています。母親は『ありがとうね、ありがとうね』と言ってくれます。何でもいいんです。親が喜ぶことをほんの少しすればいいのです」

「若白髪さんはいいことを言ってくれました。私たちは工夫をすれば、ほんの少しですが、親孝行ができると思います。どうですか、皆さん。一握りの親孝行を今日から実行してみるというのは?」

晴美の言葉に、「うん、うん、そうだな」と頷く声があちこちでしてきた。

そして、「私は母のお料理を盛っているお皿を食卓に運ぶ手伝いをしたい」とか、「父親の晩酌の相手をしてお酒をついであげたい」とか、さまざまな意見が出た。それがその人の決意表明のようになってきたようだ。

「まぁ、あまり堅苦しく考えないで親に心配をかけている分、少しでもそのお返しができればというような軽い気持ちでいいと思います。では、今日の話し合いはこれで終わります」

晴美はまとめ上げて言った。

薄化粧や白雪や普段着などから、「よくできたわよ」と言わんばかりの拍手があった。晴美は「ふう―っ」と息を吐いた。なんとか司会が務められたことに安心して、少しだけ緊張感が体から抜けていったのだ。

ただ「疲れた」と思った。司会をすることはこんなに体力を使うものかと感じた。その後の昼食でも食欲が湧いてこない。普段通りにお盆におかずの盛られた皿を置いたが一口も手をつけられなかった。

薄化粧は「どうしたの?」と心配そうに言った。幸枝までもが心配そうな表情を見せていた。

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