【前回記事を読む】「機械から教わることもある。」「ただ、そうは言っても……」変化していく宮大工の仕事。ビールを片手に、棟梁が呟いたのは——
第四章 過去にひそむ未来
YOさんの背中には、汗がにじみ出ていた。おいおい、おれはさっきまで、マンションのリビングをハワイアンにリフォームしたいお姉さんの話を聴いていたんだぜ。壁紙をアロハな葉っぱの模様にしたいんですね。そこにキルトとウクレレを掛ける。なるほど。では明日、見積もりをお出しします。
「師匠。棟梁さん。すごく恥ずかしいんですけど、僕たちの作ったスケッチ、見てもらえますか」
シュウトくんが自分のリュックから、棟梁よりだいぶ古めのPCを取り出す。
「僕は、コンピューター関連の仕事をしています。いままでにバーチャルの世界で」
若者は棟梁のほうにPC画面を向け、手早くパネルを操作していく。
「こんな風に……宇宙空間でミーティングをしたり……これは、古代のメソポタミアでバトルゲームをやりました。僕は、鳥やクラゲになったこともあります。ただ、自分たちの技術が拙いのかもしれませんが、ゲームやイベントの世界観をつくると、どうも空気感がペラペラだったり、逆に情報過剰になってしまって」
シュウトくんが、顔を少し赤らめながら話す。
「それに、ヘンなことに飽きちゃったというか、サイバースペースに入り浸ると、ものすごく疲れるんです。みんなでまったり過ごす時は、なにか違う工夫ができないかと思っていました。
僕の仲間は、日本以外にもいます。なにげなく集まって、放課後の部室のように雑談がしたいんです。でも、ただの部屋じゃ、つまらない。それで、ここを見つけてしまい……」
シュウトくんがPCをさらに動かす。画面には、桂離宮にあるいくつかの茶屋を切り取った、スネルビジュアルが立ち上がった。その中のひとつをクリックする。
緑豊かな丘の上にひっそりとたたずむ、茅葺屋根の小亭。
その〈溜まり場〉は、土壁のない開放的な正面から見ると、そっけない掘立小屋のような趣がある。
あけっぴろげな室内には、畳敷きの腰掛がコの字型に土間を囲んでいる。正面以外、三面の褪せた土壁にレイアウトされた窓は、素朴な竹や藤の蔓を組み合わせた連子格子で、外と素通しでつながる。
建物の前には石の敷かれた小路が這い、眼下の池へと続いている。
「こういう空間って、デザインがまったく威張っていない。それにウチとソトがうまく影響し合っていて……ウチかソトか、わからないぐらい。花や木、鳥の声や月の動きが、部屋の中にあるような感じで……時間の流れが、すごく気持ち良さそうなんです」