人生の切り売り

四 追憶

「初恋も未経験の十六歳が何をそんなに焦ってたのか。確かに女子高生が女子高生でいられるのは三年間だけだけど、そう思えるのもだいたい大人になってからでしょう」

ベッドの上でうんうん唸る私を、冷たい視線が見下ろしていた。

「困ってるなら、僕が書かせてあげようか?」

「そのやり取りも飽きたなあ」

「飽きた……?」

悪魔が目を丸くする。この男にこんな顔をさせるなんて、私もなかなかやるではないか。

「大丈夫。まだ上手くまとまっていないけど、橘くんの話はかなりネタにしやすい方だと思う」

仰向けに寝ていたところから上体を起こし、男の方へ身を乗り出した。

「それよりも、ねえ。過去に結んだ契約に面白いエピソードとかない?」

「え?」

目の前にいるのは超絶美形の悪魔なのだ。ネタとして使わない手はない。

「君は、君の人生を売るんだろう?」

「悪魔と出会ったことも人生のうちでしょう」

年下のイケメンに誘惑されるシーンは、相手が悪魔であることを伏せても絵になる。このプラトニックな関係にカチッとはまる設定が思い付いたら、すぐにでも一本書ける気がする。

「初めての恋人をネタにするんじゃなかったの?」

「それはそれで書くよ。書きたいし」

妹に遠慮する必要はないと分かった。橘くんとの過去も書き晒してすっきりしてしまいたい。そうすればもっと素直に二人を祝福できる気がする。