彼にそう言われるのは光栄だった。
「映画化ですか?」
その話を持っていつもの打ち合わせブースに現れた藤島希枝は、私よりもずっと嬉しそうだった。仔細を説明する間も笑顔が止まらない。
「神野さんも売れたわね!」
対してこちらは全く実感が湧かないが、次回作の要求にハッとさせられる。
「今書いてるのが上がったら、映画の公開を見越して続編を企画してもらえないかしら?」
「続編?」
売れなきゃ絶対に出てこないワードだ。
「でも、続きなんかないですよ。藤島さんなら分かってるだろうけど、もともと自分の話だし」
「それは私も考えた。恋愛ものはカップル編に入るとコケることも多いし、かといって別れるエンドも前作のファンが納得しない。だからスピンオフというか、同じ世界観で全く別の恋愛を描いてもいいと思うの。とりあえず映画化にかこつけて売り出せるもので」
「なるほど」
藤島さんも立派になって。と、言ったら怒るだろうか。
「個人的には、ナツメくんみたいな年下男子の視点を読んでみたいんだけど」
「ナツメくんですか?」
ちょうどいい。常々彼をネタにできないかと思案していたところだ。
「分かりました、考えてみます」
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