「だったら僕にかまっている暇はないだろう」
「そうだけど。もう少し協力的でもいいじゃない」
「別に君に書いてほしいわけじゃないんだよ」
「……え?」
だって私の小説を売り込むことが、彼の当座の仕事ではなかったか。
「最初の一冊を売った時点で契約自体は成立している。でも君が小説を書き続ける限りは、僕も売り続けなければならない。だから僕にとって都合がいいのは君が書くのを諦めることだ」
更に言えば、早々に私が死んで魂を回収してしまうのが一番楽なのだそう。
「薄情な男」
「心外だな。君が望んでいるうちは、僕は君を見捨てないんだよ。売れなきゃそれまでの編集者よりよっぽど心強い味方だと思うけど」
「……それも確かに?」
幾分丸め込まれている気もするが、悪魔の主張は理に適っている。
「じゃあ、ねえ。そろそろ派遣の仕事を辞めても大丈夫かな?」
「うん?」
悪魔が売ってくれるなら、専業作家になっても生活していけるだろう。派遣の仕事は収入以外にも、生活リズムを安定させたり単純作業でマインドリセットできたりといったメリットがあるが、執筆に費やせる時間が増えるのはシンプルに魅力的だ。
「私、筆を折るとか絶対ないから。死ぬまで書くつもりだからよろしく」
「死ぬまでなんて悪魔に向かって口にするものじゃないけど、君なら本当に最期まで書き続けそうだね」