「実は今回のことに懲りて、田所さんが来なくなればいいのにって、思ってたの」

明美が不意に能面のような顔で呟いた。

「私も市職員としてはまだまだダメね」

「そんなことないですよ」

雪子は静かに首を横に振ってみせた。

「田所さんには皆、悩まされてますから。もう少しだけ、お互いが気持ちよく意見を言い合えるようになれればいいですね」

もちろん本心ではない。世間一般のきれいごとを口にしただけだ。人間の自己中心的な本質は変えようもないし、誰だって自分のために生きているのだから、利己心を偽るなんて馬鹿馬鹿しいと思う。

だが、狭量な世間で上手く生きるには、周りに合わせなければならない。自分本位の悪言は、周りにならってアルカイックな微笑みの下にしまい込む。

「雪子ちゃんは本当にいい子ね」

明美がしみじみと、いつもの呟きを漏らした。

優しく真面目、いい子の雪子ちゃん――明美は雪子のきれいに飾った表面を、本物だと信じてくれている。それが彼女にとって都合のよい雪子像だからだ。

  

週末、田所は自宅にいた。

   

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次回更新は1月30日(木)、22時の予定です。

   

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