「なあ、いい子だから、とんでおくれよ……」

ジドの目をみて、おがむようにいったが、プイとよこをむいて、きこえないふりをする。それだけではない。このごろは、ジャンプをさせようとすると、逃げだすのだ。

それもチビのくせに、信じられないほど速く。右におえば左に、左におえば右に、まっすぐおえば、ものすごい速さで走りだすといったぐあいだ。

訓練士は、腹をたてた。

―こいつ、ぜったいに飛ばせてやる―

心のなかでこうつぶやくと、こんどは大きな犬をつれてきて、おわせることにした。それは、よく訓練されたどうもうな猟犬だ。

「おえ!」

訓練士のひと声で、犬はジドをおいかけた。ジドは短い足で走りだし、草や石をとびこえて、猛烈なスピードで逃げだした。

「つかまえろ!」

その声で、とびかかって、おさえつけようとした。ところが、どうしたことだろう、ジドのすがたがない。犬はあたりをかぎまわったが、どうしてもみつからない。そのうちに、一本の大きな木のしたでほえだした。みると、葉っぱのかげに、なにやら白いものがみえる。

―鳥ではない。犬だ! ジド、あいつだ!―

訓練士は、そばにいた旦那の下男に鉄砲をもってこさせると、木の枝めがけてぶっぱなした。

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