そうやって人からの大きな期待を受けて、自分もその結果を出す、そんな対人関係をだいちゃんは初めて経験したのかもしれない。本当に、だいちゃんは変わっていった。
だいちゃんの資質を見つけて根気よく付き合って、ここまで引き出してくれた平良先生のことは、僕もすごく尊敬する。出会いって大事だ。もちろん、人との強い信頼関係や、強い自信を持ち始めた人間が良く変わっていくのはある意味当然なことだと思う。
当然だけど、だいちゃんが子供の頃から皆よりも早くいろんな孤独や苦労を味わっていたことを知っていたから、僕にとって、それは感動するくらい嬉しいことだった。
昔、だいちゃんは僕に話してくれた。まだ小さい時に、お母さんがどこかへ行ってしまったままいつまでも帰ってこなくて、お父さんも夜まで仕事から戻らなくて、広い家の中で独りきり、お腹がすいてお腹がすいて、それがとても辛かったんだ、と。
空腹で、いつ帰ってくるかもわからない親をひとりで待つ心細さは、どれほどのものだっただろう。多分ほとんどの同級生は、だいちゃんのそんな過去を知らない。
僕らは同じ学校に通って毎日のように顔を合わせているけれど、皆がどんな家に住んで、どんな家庭環境の中で生活しているかは、お互い知り得ないんだ。
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