創作実話創作実話 沢市 さとみ
ホラーの何が怖い?と聞かれたら、私は迷わず一寸先の闇、と答えるだろう。一秒後の展開は無限大だ。家の中とて油断できない。
バスルームの扉を開ければシャワーから血が降りそそぎ、ベッドの床下には魑魅魍魎(ちみもうりょう)が住み、丑三つ時にはテレビから女が這い出してくる。それら内なる恐怖に負けてしまい、ホラー映画では決定的瞬間になると視線を下げてしまうのが常だ。
ピンポーン。
高らかな音に反応し顔を上げると、液晶テレビの中では既に髪の長い女が四つん這いで家中を走り回っているところだった。一時停止し、立ち上がる。
壁のモニターを見る前に、ふと想像する。九割の確率で画面に映るのは恋人の篤。が、残り一割の確率で髪の長い、白い服を着た女が映ったら?
みずからこしらえた女の影に身震いし、私は視線をわずかに下向けたまま、通話ボタンを押した。
「はい」
「こんばんは」
聞いたこともない女の声に、器用な私は物静かに飛び上がった。しかし続けて「隣の飯島です」という明るくて若い声に、監督・私の恐怖映像は敢えなくお蔵入りになったのだった。
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