どの人も分かってはいるものの、その大きな金魚を狙い、そして、大きな金魚も掬ってみろと、ポイの手元で口をぱくぱく、誰もが必ず、それでポイを破いて仕舞っていた。
「ええい、畜生! 重すぎてポイに乗らない、掬えない金魚はインチキだ!」
そう言って因縁を付けて、文句や愚痴を言う客の前で、たかちゃんは、
「釣れるよ、ほら!」
と、言いながら実践して見せると、大きな出目金がポイの中に入り、掬われて仕舞う、
「ううっ、凄い! 本当に釣れるのか!?」
「そうだよ、やり方次第だよ!」
と、言いながら、たかちゃんは、透かさず小さな出目金を二匹袋に入れて、ポイが破れた客に渡す。
「これはオマケだよ」
「いいのかい?」
「いいよ、一杯いるから、さあ、金魚掬いだ! やってかないかい?」 と、金魚掬いの口上を口にする。
全く商売上手で、口も手も器用な小さな少女だと、客からも感心されるほどだった。
そんな、たかちゃんの、その背後から、片目を瞑った父親が顔を出す。
「たか、金魚は減ったか?」
「ううん、減ってない、上手く掬える客がいなくて」
「そうか、じゃあ三匹ぐらい袋に入れてやれ」
「うん、いいよ、子供からね!」
と、父親に答える。と、そこへ、人相の悪い親子連れが現れた。
「何だなんだ、ここの金魚掬いは、片目の出目金しかいないじゃないか、屑金魚ばかりだな? あん」
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