風吹く中の明るい少女

風戦(そよ)ぐ草原に、少女の姿が有った。

見上げると赤く焼けた大空に、飛行機雲が長く尾を引いている。

夕暮れの夜の闇が迫る原っぱから、明かりが灯った街の中へと足を向けると、急に走り出す幼い少女。夕暮れの街中を、一人の少女が駆けて行く。宵闇迫った暗い夜道を、ある場所に向かって直(ひた)走る。

「今夜は、待ちに待った縁日だ! よーし稼ぐぞ!」

と、独り言を言いながら、一人の少女が、古い寺の参道に入って行く。夕方の縁日の人混みを掻き分けて、縫う様に走って行く、その先に有るのは、縁日の金魚掬いの屋台だった。

それは、今では見られない、縁日の夜、出店が並ぶ沿道での商魂逞しい人たちの夜祭りの風景だった。

目を輝かせた少女は、この界隈では有名で、皆、たかちゃんと呼んでいる。

金魚掬いの屋台、綺麗な色と柄の金魚たちが、水槽の中を隊列を組んで泳いでいた。

「今日も金魚たちは、みんな元気だ!」

金魚台の前で泳ぐ金魚を眺めながら、そこでたかちゃんは、金魚掬いの屋台の中に入り込み、通り過ぎる人混みに向かって、威勢よく掛け声を上げた。

「金魚掬いはいかが~」

一際、大きな明るい声で、過ぎゆく人々に、小気味よく掛け声を掛けた。

「より取り見取り、綺麗な金魚が一杯いるよ!」 縁台の金魚掬いの水槽には、色とりどり鮮やかな金魚たちが泳いでいる。

声を掛けられた人々が振り返り、水槽の中に見入っている。

その水槽の中でも一際大きな赤出目金、黒出目金が、優雅に尾を振り泳いでいた。

「凄く大きな出目金だろ、これもこいつで掬えば、持って行って構わないよ!」

大きな四尾金(しびきん)、和金、キャリコと琉金、金兜に銀兜、獅子頭に土佐金、小さな錦鯉まで泳いでいる。

半紙のポイでは、到底、掬えない桁違いの金魚が、大きさを見せ付けるようにして泳いでいるのだから、小憎らしい!

それは俗に言う客寄せの桜の金魚だったが、色と形、顔付など整っていて、誰もが欲しくなる金魚だった。