臨時稼業

そんな、金魚の問屋には、大きな水槽が幾つも並び、色とりどりの金魚が、無数に泳ぐ姿には圧倒されるものが有った。

威勢よく掛け声を上げて、金魚を一網で間違いない数を掬い上げる。

目見当でも正確に網に入れている、知り合いに言われた金魚の問屋で、縁日用の金魚掬いの金魚を仕入れに、父親は、幼い娘のたかちゃんを連れて行き、そこで、好きな金魚を仕入れていた。

「たか、お前の好きな金魚を選んでいいぞ!」

「本当?」

「ああ、本当だ!」

金魚の問屋の並ぶ中を父親と歩きながら、たかちゃんが色々と見て回ると、仕入れの金魚の水槽の向こうに、病気で弱った大きな赤い出目金と黒い出目金が、洗面器の中で横に浮いて、今にも死に掛けていた。

それに気付き、たかちゃんが、問屋の主にたずねた。

「この金魚どうしたの、病気なの?」

すると、問屋の親父が、

「ああ、もう一日か二日で死んじまうから、別の入れ物に移して有るんだ」

「凄く大きいのに可哀そう……」

「ああ、勿体ないが仕方ない、ああっ! でも、嬢ちゃんになら安く売ってもいいぜ!」

父親が、

「死んじまう金魚を売るのか?」

「ああ、見た目は立派で大きいし、死ぬまでは、いいおもちゃになるだろ!」

「い、幾らだ?」

「まあ、これぐらいで……」

「た、高い、それならこっちの琉金か土佐金の方がいい!」

すると、たかちゃんが父親を見上げて、

「欲しい、この金魚ちゃんが、欲しいよ」

「ああ、死んじまう金魚が欲しいのか?」

「うん、欲しい!」

滅多に欲しいと言わない娘に対して、それを無下にできず、父親は、仕方なしに、問屋の親父に、

「こいつを貰う」と、言う。

 

「へい、旦那、黒出目と琉金、こっちも付けて、割り引くよ」

と、小憎らしく問屋の親父は、他の死に掛け金魚を、更に持って来て、たかちゃんに押し付けてきた。

「何てこった、何匹も死に掛け金魚を、買う羽目になっちまった」

父親は渋々、死に掛けの大きな出目金と、他の数匹を買い込んだが、たかちゃんは嬉しそうだった。

確かに、元気のいい状態なら、倍はするから手も出ない、しかし、翌日には死んで仕しか舞う金魚に、何の値打ちが有るのかと、父親は顔を顰めていた。

(死んだら焼いて食っちまうか?)