たかちゃんは、家に帰ると、直ぐに、洗面器に塩水を作り、そこに出目金たちを入れて、その洗面器の中で、出目金を手の平に乗せて、何やら突き始めた。
それを父親が覗き込む。
「何してんだ? たか」
見上げたたかちゃんが言う。「うん、この出目金ちゃんの鰓(えら)に、寄生虫がいるんだ。それをピンセットで取ってあげてるの」
ああー、ああ、これで、この出目金は、ピンセットで鰓や鱗を突き回されながら、あの世に行くんだなと、眉を顰める。
一通り、寄生虫を取り除いた、出目金たちが、瀕死の状態で洗面器で横になっていた。
翌朝、父親が七輪を出して、出目金を見に行くと、そこには、もう、娘のたかちゃんが起き出して来ていて、一足早く洗面器を覗いていた。
その後ろ姿を見て、ああー、死んだんだなと、思いつつ、
「おい、たか、そいつを寄こせ! お父ちゃんが食べるから」
と、手を出すと、
「だめだよ、生きてる金魚食べないで!」
そのたかちゃんの言葉に、父親が片目を丸くした。
「な、なんだ、生きてるって?」
良く見ると、洗面器の中で元気を取り戻した出目金が、泳ぎ回っていたのだ。
それから、奇跡的に回復した出目金たちは、たかちゃんに良く懐き、手の平に乗ったり、芸までするようになっていた。
夜祭りのてき屋の金魚掬い
縁日の通行人が行き交う沿道に、一塊の人だかりが、出店を囲む、その人だかりの隙間から覗くと、金魚掬いの水槽の前に屈み、ポイで、金魚を大量に掬い取る少女がいた。
四才から五才ぐらいの幼い少女が浴衣姿で袖をまくり、一本のポイで水槽の金魚を何匹も掬い上げている。
その姿に、通りすがりの通行人が足を止め見入るほど、少女の手が素早くポイで水面すを漉き取ると、金魚が金ボールの中に掬い取られる。
「何だ、なんだ、凄い、これだけの金魚を、それ一本で掬ったのか?」
その少女は、一つのポイで金魚を手当たり次第に掬っている。
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